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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2970号 判決 1978年7月26日

控訴人

潮田太一

右訴訟代理人

杉山朝之進

被控訴人

関沢靖策

右訴訟代理人

高木義明

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件(一)(二)の各建物がもと控訴人の所有に属していたこと、被控訴人が、その主張の各抵当権に基づき、本件(一)(二)の各建物につき東京地方裁判所に対し競売の申立て(本件(一)の建物につき昭和三八年(ケ)第二六〇号、本件(二)の建物につき同年(ケ)第二六一号各不動産競売事件)をし、昭和三八年四月一五日に競売開始決定を得、翌三九年四月二四日本件(一)の建物を代金二二五万二八〇〇円で、本件(二)の建物を代金五二〇万円でいずれも競落したこと、右各競落代金については、昭和三九年六月一〇日、被控訴人において、納付済みの各保証金を控除した残額と、その主張の各被担保債権額(元本及び遅延損害金の合算。いずれも、納付済みの各保証金額を控除した各競落代金額を上回る。)との対当額による相殺の申立てをしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二<省略>

三次に、被控訴人の被担保債権額を争う控訴人の主張は、前記一に争いのない事実として掲げた被控訴人の相殺の申立ての効力を否定する主張とも解されるので、この点につき検討する。

思うに、競落人が債権者である場合には、債権者として受け取るべき交付額と競落代金額との差引計算によつて競落代金支払義務を対当額にて消滅させる取扱いが、競売手続においても民訴法六九九条の手続に準じて一般に行われており、被控訴人の右相殺の申立ては、かかる取扱いを求める申出にほかならず、そして、右差引計算は、裁判所の計算に基づいてされるものであり、また、他の権利者から異議がありその異議が正当であるときは、競落人は、不足額を支払い又は保証を立てなければならないものとされている。ところで、<証拠>によれば、本件(一)(二)の各建物の競売手続において、被控訴人は、それぞれ「相殺願」と題する書面とともに計算書を提出して右差引計算を求め、そのいわゆる相殺の申立をしたこと、裁判所は、これに対し、右各計算書を確認して差引計算を行つたところ、被控訴人から支払を求めるべき各競落代金の残額がなかつたため、被控訴人の各競落代金支払義務を免れしめ、一方、他に異議を申し立てるべき権利者もなかつたので、被控訴人において各競落代金の支払を了したものとして、本件(一)(二)の各建物につき被控訴人のため競落による所有権移転登記を嘱託したことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、被控訴人において各競落代金の支払を了したものとされた段階において、被控訴人は、本件(一)(二)の各建物の所有権を競落により取得したものというべきである。

この点につき、裁判所の差引計算において競落人たる債権者の債権額が過大に計上されていたため右競落人に支払わしめるべき競落代金のなお存することが後に判明した場合には、いまだ競落代金の支払は終つていないとする見解も考えられないでもない。しかしながら、この見解に従うときは、右債権者の受け取るべき交付額が確定判決によつて別途確定するまでは、競売手続は、真の完結を見ず、後に確定したところのいかんによつては、いつたん完結の扱いをした競売手続を再び続行しなければならないという不安定な様相を呈することとなる。のみならず、右の場合には、競落人たる債権者が、現実に競落代金を支払つた上、過大に計上された自己の債権額につき右競落代金ら交付を受けたのと計算上は異なるところがなく、かかる過大の交付については、これによつて損失を受けた後順位の権利者又は債務者から、右債権者に対し、不当利得の返還を求めるという形で、競売手続外において解決されるのであり、したがつて、差引計算の際の債権額の過大の計上の場合にも、かかる形での解決にゆだねるのを相当とするから、右見解にくみすることはできない。<以下、省略>

(岡松行雄 賀集唱 木村輝武)

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